「ピカは山崩れたーあ(「とは」の意味)ちがう、人が落さにゃ落ちてこん」――これは、73歳で画壇にデビューした画家の丸木スマ(1875~1956年)の言葉です。「ピカ(原爆)は山崩れとは違い、人が落とさなければ落ちてこない」という意味です。身近な自然や生き物を生命賛歌のように、独特な色彩でユーモラスに描いたスマは、米軍が広島に投下した原爆で、危うく命を落としかけました。
スマは、画家・丸木位里の母です。位里は妻の俊とともに、連作「原爆の図」を共同制作した人物です。滋賀県立美術館(大津市)で開催されている「丸木スマ展 73歳からのアーティスト」では、老齢になって画壇デビューしたスマの画業を、作品や関連資料約130点でたどっています。会場の原爆体験に焦点を当てたコーナーでは、冒頭の言葉も紹介されています。
原爆は自然災害ではありません。この事の本質を突いたスマの言葉と対照的なのが、2016年5月に現職の米大統領として初めて広島を訪れたオバマ氏のスピーチです。平和記念公園で原爆慰霊碑を背にし、被爆者団体の代表らを前に行われた17分間の演説は、「71年前、晴天の朝、空から死が降ってきて世界が変わりました」という言葉で始まりました。都市の破壊と幾万もの死を強いた主体が「誰か」を明示せず、原爆投下の責任への言及もありませんでした。
スマの言葉は、米国を直接的に糾弾しているわけではありません。しかし、「人が落とさなければ落ちてこない」という一文は、原爆が自然災害ではないという事の本質を突いています。老齢になって絵筆を握った被爆者が残したその言葉は、今も深い問いかけとして響いています。