人気声優の津田健次郎さんの声に似た生成AI音声を巡り、TikTokの動画削除を求めた訴訟の判決で、東京地方裁判所は原告の請求を棄却しました。しかし裁判所は、AI音声が権利を侵害しないと結論付けたわけではなく、人の声と「パブリシティ権」に関する一般論を提示したことで注目を集めています。
この裁判は、2024年7月から2025年9月にかけてTikTokに投稿された188件の雑学動画のナレーションが発端です。津田さん側は、ナレーションが自身の声にそっくりであり、著名人の顧客吸引力を排他的に利用する「パブリシティ権」や不正競争防止法を根拠に運営会社へ削除を求めました。これに対し運営会社側は、第三者の声をAIで加工したもので津田さん本人の声ではないと主張していました。
地裁が請求を棄却した理由は、訴訟の途中で投稿者がアカウントを削除し、TikTokのサーバーからも対象動画が消去されていたためです。今回の訴訟では損害賠償が請求されておらず削除のみが争点だったため、裁判所は「すでに削除されている以上、運営会社に削除義務は生じない」と判断しました。そのため、具体的な権利侵害が成立するかどうかについての判断は見送られました。
もっとも地裁は、判決のなかで「人の声」とパブリシティ権の関係についての一般論を示しました。これは「AI音声を利用しても問題ない」とお墨つきを与えたものではなく、今後のAIビジネスや声優の権利保護を議論する上で重要な指針となるとみられています。