オフィスの休憩エリアで過ごしていても、必ずしも心が休まっているとは限らない──。家具大手のイトーキと、AIの社会実装を手掛ける松尾研究所は、従業員の行動データから日々の働き方が心身や人間関係にどう影響するかを推定するAIモデルを開発した。イトーキ日本橋オフィスの従業員854人の行動ログを分析したところ、会議の長さよりも「回数」や「メッセージの受信数」が働く人の負担に深く関っていることなど、従来のイメージを覆す実態が明らかになった。
研究チームは、従業員の位置情報、カレンダーの予定、メールやチャットのやり取りから70種類の特徴量を抽出し、時系列の因果関係を調べる手法「VAR-LiNGAM」を用いて「今日の行動が翌日の状態に与える影響」を分析した。生産性の向上を目指すうえで、成果の客観的な定義や影響する要因の多さが障害となっていたが、この3層構造のモデルにより、アンケート調査を実施しなくても、日々蓄積される行動データから従業員のコンディションをモニタリングできるようになったという。
分析の結果、一般的な通説を裏付ける傾向として、「会議が通常より3〜4回多い日は翌日の心の状態が下がる」という影響が確認された。一方で、意外な発見として「忙しさの正体」はメッセージの送信数ではなく「受信数」に関連していることが判明した。受信メッセージが多い日は組織内の人間関係が悪化する兆候が見られたの対し、自ら送信を多く行った日の翌日は人間関係が改善する傾向を示した。また、「休憩を取れば心の状態が回復する」「長時間オフィスにいるとつらい」といった通説は個人差が大きく、明確な一貫性は確認されなかった。
イトーキでAI開発チームを率いる酒井美帆氏は、会議の時間を短くするよりも会議そのものを減らす仕組みの導入や、メールの宛先範囲を見直して受信数を抑える工夫など、具体的な業務改善につなげる意義を強調している。現時点では1社1拠点の1か月分のデータに基づく検証段階であり、対面とオンライン会議の区別や他社への応用には顧客ごとのモデル構築が必要といった課題も残されている。両社は既存のオフィス運用支援事業「Office3.0」の中で、一部の顧客とともに実用化に向けた検証を進めている。