布の上に美しい文様が繰り返される「木版摺更紗」は、木版と型紙を使って染める日本の伝統的な技法です。2008年にこの分野で人間国宝に認定された鈴田滋人さんは、型を使いながらも同じ作品は作らず、すべて一品ものとして制作を続けています。
木版摺更紗は、かつて佐賀県の鍋島藩で作られていた「鍋島更紗」が元になっています。大正時代の初期に一度途絶えましたが、鈴田さんの父である照次さんが秘伝書などをきっかけに研究を進め、復元させました。東京で日本画を学んでいた滋人さんも、父が残した仕事の重みを知り、家業を継いで自分の表現を探り始めました。
制作では、木版で布に文様の輪郭を押し、型紙で色を入れ、さらに文様以外の部分を染める「地染め」を行うなど、いくつもの工程を重ねます。着物1作品で版を打つ回数は1500回から3000回にもなります。作業中は全神経を集中させますが、手作業による線のかすれや色の濃淡といった微妙な「揺らぎ」が、作品ごとに異なる表情を与えています。
鈴田さんの作品の大きな特徴は、自然の草木などをスケッチして形を抽象化した文様と、その「間」を生かした空間表現にあります。文様を隙間なく敷き詰めるのではなく、文様同士の幅を広げて空間に変化をつけることで、まるで日本画の構図のような心地よいリズムが生まれます。
現在72歳の鈴田さんは、息子の清人さんへ技を伝えながら制作を続けています。「伝統を守るだけでなく、この技法でどのような表現ができるかを探りたい」と語る鈴田さん。時間をかけて身近な自然と向き合い、感動を文様に託す仕事は、今も多くの人を魅了しています。