神奈川県横浜市金沢区の海辺近くに位置し、かつて与謝野晶子や高浜虚子ら数々の文人墨客に愛された旧料亭旅館「金澤園」が、歴史的な風情を残したままカフェとして再生し、訪れる人々の関心を集めている。1930年(昭和5年)の開業からおよそ100年が経過した建物は、2016年まで料亭として営業が続けられた後、国の登録有形文化財に登録されており、現在は1階が手軽に立ち寄れるカフェスペースとして一般に開放されている。
「金澤園」のルーツは1916年に横浜・桜木町で創業した料亭「満月」にさかのぼる。1923年の関東大震災により建物が失われたものの、1929年に東京・品川で震災に耐え抜いた明治期の木造家屋を解体して船で運び、宮大工の手仕事により再築・増築された。2011年の東日本大震災の際も、皿一枚割れなかったとされ、二度の大震災を生き延びた重厚かつ緻密な構造が息づいている。
2020年、維持管理の大変さから取り壊しも懸念される中、4代目当主が建物を継承。海外留学時代に歴史的建造物をリノベーションして活用する光景に感銘を受けたことから、完全予約制だった料亭をより気軽に利用できるカフェへと転換させた。料亭時代の大厨房を改装した店内では、自家製タルトや、戦時中に横須賀の海軍航空技術廠の指定旅館であったゆかりから選ばれた広島・呉の「海軍さんの珈琲」などが楽しめる。
カフェの利用客は、食後に2階の大広間や客室を見学することも可能だ。与謝野晶子夫妻が滞在した客室や銘木の床の間などが保全されており、往年の華やかな宴の記憶を今に伝えている。結納や七五三などの記念日に訪れたかつての利用客が、家族を連れて再訪する光景も見られ、特別な日のための空間から身近な日常の場へと姿を変えながら、歴史を未来へとつないでいる。