Webアプリの人気フレームワーク「Ruby on Rails」の生みの親であり、37signals社の最高技術責任者(CTO)を務めるDHH(デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン)氏が、2026年9月23日に開催されたカンファレンス「Rails World 2026」の基調講演で、自社における手書きコード作成の原則終了を宣言した。「Pencils Down(鉛筆を置く)」と題した講演の中で同氏は、もはや人間が手でコードを書くことは経済的に生産的な行為ではなくなったと指摘し、AIエージェントによる自動生成を前提とした新しい開発体制へ全面的に移行する姿勢を明確にした。
DHH氏は、この主張が開発者の未来に対する絶望を意味するものではないと強調する。1900年の「コダック・ブラウニー」の登場によって写真が普及し、画家の役割が写実から抽象的な表現へと進化した歴史を引き合いに出し、2025年11月の「Claude Opus 4.5」の登場がソフトウェア開発における転換点になったと分析した。直接コードを入力するのではなく、エージェントを動かすための「機械」(プロンプトや指示ファイル)や「工場」(テスト環境やガードレール)を設計・改善することこそが、これからのプログラマーの主要な役割になると説いている。
37signals自社での失敗体験も開示された。2026年春の「Basecamp 5」開発終盤において、デザイナー陣がAI主導の「バイブコーディング」で機能構築を進めた際、全体構造が破綻しかけたという。当初は「AI技術は未熟であり人間主導に戻すべきだ」と判断したものの、同氏はこれを間違いだったと振り返る。モデル性能の飛躍的向上に加え、本質的な課題は人間が作業を回収することではなく、「いかに人間の知能をてこにして最高の結果を引き出すか」という仕組みづくりにあると結論付けた。
さらにDHH氏は、2026年8月の1か月間で1万5000行のコードを本番環境に投入したという自身の実績を明らかにした。これは過去の年間平均約3000行をはるかに上回る数字であり、「今や最もお気に入りのプログラミング言語は英語だ」と語った。道具を使いこなす開発者とそうでない者の生産性の差は100倍から1000倍に広がると予想し、将来的にフルタイムのプログラマー需要が3割程度に減少する可能性にも言及した。あわせて、Railsの「設定より規約」という設計思想がAIエージェントと親和性が高いことや、メールサービス「HEY Next」のバックエンドをRustで再構築し大幅な省資源化を実現したことも公表された。