藤本タツキの人気漫画を原作とした是枝裕和監督の最新作実写映画『ルックバック』が、第83回ベネチア国際映画祭で5つの公式独立賞を受賞した。2024年に公開されたアニメ映画版のヒットを追うかたちの企画に見られがちだが、実際は2021年の原作発表直後から是枝監督による実写化が進められていた。新型コロナウイルスの影響で制作活動が停止していた時期に単行本と出会った是枝監督は、登場人物の「背中」に込められたメッセージに強く動かされたという。
物語は大筋で原作に忠実に展開する。地方に住む小学生の「藤野」は、学年新聞の4コマ漫画で人気を集めていたが、不登校の同級生「京本」の圧倒的な画力を知り、自信を打ち砕かれる。しかし、二人の出会いをきっかけに再び創作への情熱を取り戻し、「藤野キョウ」のペンネームで共に漫画を制作していく。劇中では、主人公たちがプロの漫画家を目指して成長する過程が丁寧に描かれ、実際に演じた俳優たちが長い時間をかけて練習したペンを走らせる音の変化によっても、歳月の経過が表現されている。
上映時間99分となる実写映画版では、テンポの速い漫画や58分のアニメ版とは異なり、二人が過す時間をより豊かで濃密に描いている。配役面では、中学生の途中で子役から大人の俳優へ交代させる大胆な試みを行った。さらに、原作者の出身地である秋田県にかほ市で撮影を行い、四季折々の風景や光を35ミリフィルムで美しく映し出している。物語の終盤では、実写映像をトレースしてアニメーションにする「ロトスコープ」という手法も用いられ、想像の世界や「少女の夢」を温かく表現している。
日本の漫画文化は、子供の描いた4コマ漫画が巨大な産業へとつながる背景を持っている。是枝監督は、そうした創作の原点や登場人物たちが選び取った道に温かいまなざしを注ぎ、映画ならではの表現で完成させた。本作は現在全国で公開されており、海外の映画祭でも高い評価を受けるなど、原作やアニメ版とは異なる新たな魅力を観客に届けている。