世の中には、道案内が得意な人と、すぐに道に迷ってしまう方向音痴な人がいます。この違いには、脳にある「線条体」と「海馬」という二つの部分の働きが関わっています。線条体は近くにある建物などの目印を覚え、毎日同じ道を通るような習慣からルートを記憶します。一方で、海馬は周りの環境を組み合わせて脳内に「地図」を作る役割を持っています。これにより、初めて行く場所でもどちらへ進めばよいかを判断できます。
1970年代の研究では、ラットが特定の空間にいるときに海馬のニューロンが活動することが分かりました。これは暗闇の中でも起こり、目で見える情報がなくても「場所細胞」が頭の中で地図を作っていることが示されました。さらに2005年には、移動するときに規則的に働いて座標を作る「グリッド細胞」が発見されました。これらの発見には2014年にノーベル賞が贈られています。
このような能力には個人差があり、双生児の研究によると、約60%は遺伝によるものとされています。整った格子状の街で育った人は、複雑な場所で迷いやすい傾向もあります。しかし、この能力は訓練によって高めることができます。例えば、ロンドンの複雑な道路を覚える難しい試験に合格したタクシー運転手は、海馬が著しく成長することが確認されています。
いつもGPSのマップアプリばかりに頼っていると、自分で空間をイメージする能力が低下し、方向感覚が弱くなる可能性があります。知っている道ではGPSを使わずに遠くの建物を意識したり、紙の地図を見て歩いたりすることが勧められています。自分の身体を動かして探検することが、脳の空間記憶を鍛えることにつながります。